修理屋のひとりごとVOL.1
今どき流行らない指輪
ある時ご婦人がやって来て、『こちらは直せるでしょうか?』と訪ねられた。
今どき流行らないその指輪は、宝石も抜け落ちて指輪もヒビが入り歪んでいる。
貴金属店では、新しいものを購入した方がお得ですよと、お決まりの言葉で受け付けてくれなかったという。
『主人が買ってくれたものなんです。』と呟き、私の返事を不安そうに見つめる。
当時、若い青年のご主人には、これを買うのにさぞ無理をしたであろう加工が施されている。
無理をしてこの少女にプレゼントしたのだろう。
『わかりました。やってみます。』
と申し上げると、安堵した表情で深々とおじぎをして帰っていった。
私はご婦人の背景を想像しながら、指輪を直しながら気が付いた。
私が修理しているのは指輪ではなく、彼女の思い出を磨いているのだと。
丁寧に直して完成品をお渡しすると、これ以上ない満面の笑みでありがとうございましたと喜んで帰っていかれた。
そのご婦人のうしろ姿に、こちらこそあなたのその思い出の修理に関わらせて頂き、ありがとうございましたと頭を下げた。